糖尿病のバイオマーカーとしてヘモグロビンA1c(HbA1c)が知られており、これはヘモグロビンに糖が結合したものです。何故HbA1cが糖尿病治療の指標となっているかといいますと、糖尿病により高血糖になるとたんぱく質のアミノ基に糖が化学的に反応する、いわゆる「糖化(glycation)」によりadvanced
glycation end products (AGEs)と呼ばれる生成物が生じます。この反応をメイラード反応といい、アマドリ化合物ができる初期段階とそれ以降の後期段階からなります。AGEsは終末糖化産物の総称であって、糖の種類の違いにより種々のAGEs構造体があり、代表的なものにNε-(carboxymethyl)lysine
(CML), ピラリン、イミダゾロン、ペントシジン、クロスリン、ピロピリジンなどがあります。糖化反応は糖尿病だけでなく、老化によっても生じます。従って、老化によってAGEs修飾たんぱく質が作られ、骨や脳に沈着し、また受容体に結合することにより種々の症状が現われます。
AGEsの受容体として、RAGE (receptor for AGEs)、ガレクチン3、他にスカベンジャー受容体ファミリーに属するのも知られています。2型糖尿病では、AGEsが受容体RAGEに結合し、シグナル伝達のNF-κB経路を活性化し、前炎症性サイトカイン、酸化ストレス、反応性酸素種ROS(reactive
oxygen species)が生じることで組織障害が誘導されます。糖尿病患者の海馬の脳損傷はAGEsが関連すると考えられており、血管合併症、動脈硬化、末梢神経症、腎障害、眼の網膜症などの病因とも関連しています。アルツハイマー病でも海馬の損傷が顕著に見られることからAGEsの関与が考えられています。また、老化に伴ってAGEsが蓄積し、軟骨細胞が活性化されると前炎症性サイトカインや酵素のmatrix
metalloproteinases (MMPs)が作られ、膝関節での炎症や酸化ストレスが起こります。
AGEsの生成とAGEs修飾たんぱく質による反応を如何に抑制するかはアンチエイジングで大きな課題です。ぶどう種子エキスポリフェノール抽出物(GSPE)は、AGEsの生成とRAGEの発現を抑制すること、また、酸化ストレスやROSの生成を抑制することによりAGEs刺激を受けた血管内皮細胞の接着分子(VCAM-1やICAM-1)の発現を抑制することが報告されています(1,2)。さらにGSPEは糖尿病腎症に有効であり、酸化ストレス関連たんぱく質レベルに影響を与え、種々の糖尿病の症状を緩和することが報告されています(3)。AGEs構造体の1つであるペントシジンはコラーゲンを修飾しますが、フラボノイドはミリスチン≥
クエルセチン > ルチン> (+) カテキン > ケンフェロールの順で阻害作用のあることも報告されています(4)。
我社の発酵ぶどう食品(fermented grape foods, FGF)の原料である甲州種の果皮・種子にはトリテルペンのオレアノール酸が多量ふくまれていることを共同研究者である川口基一郎教授(いわき明星大学薬学部)らが明らかにしています。オレアノール酸とウルソール酸が糖尿病マウスの腎臓中のアルドール還元酵素作用や糖化生成物を抑制するという報告があります(5)。それによると、0.1%と0.2%のオレアノール酸、またはウルソール酸を含む飼料を糖尿病マウスに5週間、または10週間与えると、症状が改善し、血糖値、HbA1c量、腎臓のNε-(carboxymethyl)lysine量、尿中の糖化アルブミン量とアルブミン量が有意に減少し、血漿中のインスリンが増加し、腎臓のクレアチニン量が減少し、腎臓のソルビトールとフルクトース濃度が減少すると報告しています(5)。ウルソール酸とオレアノール酸の構造が類似しており、ウルソール酸は既に化粧品に使われています。カテキン類では(-)エピカテキンとエピガロカテキンガレート(EGCG)も検出されています。また、フラボノイドとしてクエルセチンなどが含まれています。発酵ぶどう食品をマクロファージに作用させると、AGEs修飾たんぱく質によるTNF-α産生が抑制されることがin
vitroの実験で明らかになっており、発酵ぶどう食品はAGEs修飾たんぱく質による炎症反応を抑制し、アンチエイジングに繋がるものと期待しています。
甲州種ぶどう果皮・種子から分離したオレアノール酸の化学構造
参考文献
1. Zhang FL, Gao HQ, Wu JM, et al.
Selective inhibition by grape seed proanthocyanidin extracts of cell adhesion
molecule expression induced by advanced glycation end products in endothelial
cells. J Cardiovasc Pharmacol. 48:47-53, 2006.
2. Ma L, Gao HQ, Li BY, et al.
Grape seed proanthocyanidin extracts inhibit vascular cell adhesion molecule expression induced by advanced glycation end products through activation of peroxisome proliferators-activated receptor gamma. J Cardiovasc Pharmacol. 49:293-298, 2007.
3. Li BY, Cheng M, Gao HQ, et al.
Back-regulation of six oxidative stress proteins with grape seed proanthocyanidin extracts in rat diabetic nephropathy. J Cell Biochem. 104:668-679, 2008.
4. Urios P, Grigorova-Borsos AM, Sternberg M.
Flavonoids inhibit the formation of the cross-linking AGE pentosidine in collagen incubated with glucose, according to their structure. Eur J Nutr. 46:139-146, 2007.
5. Wang ZH, Hsu CC, Huang CN, Yin MC.
Anti-glycative effects of oleanolic acid and ulsolic acid in kidney of
diabetic mice. Eur. J. Pharmacol. 628(1-3):255-260, 2010.
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