2011年のノーベル医学・生理学賞を3人の教授が受賞した。ラルフ・スタインマン教授が受賞直前に亡くなられたことに目がいって、ジュール・ホフマン教授とブルース・ボイトラー教授の受賞の影が薄くなった気がする。ホフマン教授は昆虫の自然免疫に重要なTollという受容体があること、ボイトラー教授は哺乳動物にもToll様受容体(TLR)が存在し、自然免疫に重要であることを発見した。
TLRはTLR1~TLR10まである。ボイトラー教授はグラム陰性菌の外膜の構成成分であるリポ多糖(LPS)に対する受容体がTLR4であり、C3H/HeJ(以下HeJ)マウスとC57BL/10ScCr(以下Cr)がLPSに応答しないのは、HeJマウスがTLR4に変異があり、CrマウスはTLR4が欠損していることを明らかにした。
弊社社長の熊沢義雄は20年ほど前、マックスプランク免疫生物学研究所で客員研究員(教授待遇)として研究していた。Crマウスにネズミチフス菌やネズミマラリアを感染させた時、コントロールとなるSnマウスと比べ、インターフェロン・γ(IFN-γ)産生が著しく低いことを見出していた。ボスのクリス・ガラノス博士/マリーナ・フロイデンベルグ博士からブルース・ボイトラー博士を紹介され、夕食を一緒にした。ブルースは前炎症性サイトカインとして知られている腫瘍壊死因子α(TNF-α)の発見者であり、クリスとマリーナはブルースと共同研究について話し合っており、その研究がノーベル賞となった。その後、熊沢が北里大学大学院基礎生命科学研究科の教授をしていた時、大学院生の野口大輔君はCrマウスのIFN-γ産生が低いのはインターロイキン12(IL-12)受容体に欠損があることを見出したが、ブルース、クリス、マリーナのグループに先を越されてしまったのは残念であった。
審良静夫教授(大阪大学)もTLR4がLPSの受容体であることを発見された。その後のTLRに関する研究はブルースの研究を凌駕するものであったが、ブルースの論文が4カ月前に「サイエンス」に発表されたことが大きな違いになったのだろう。事業仕分けで「ナンバー2では駄目ですか?」といった政治家もいたが、特許の世界でも同じであり、最初でなければ駄目だということである。個人的には審良教授も一緒にノーベル賞に選ばれても良かったと思うが、厳しい世界である。
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