TNF-αは「腫瘍を壊死させる因子」として始めは考えられていた。その後、炎症を誘導するたんぱく質であることが明らかとなり、今ではTNF-αは前炎症性サイトカインとして知られており、急性炎症と慢性炎症を誘導する。近年、抗TNF-α抗体がリウマチなどの治療に使用され、劇的な効果を上げている。
TNF-αが関連する疾患として、急性炎症では全身的炎症の敗血症、多臓器不全など重篤な疾患がある。原因物資の一つとしてグラム陰性細菌の外膜の構成成分であるリポ多糖(LPS)があり、LPSがマクロファージに作用するとTNF-αが作られる。LPSの受容体がTLR4(ノーベル医学・生理学賞の項を参照)を介してシグナルが細胞内に伝達されるとTNF-αが生合成される。ブルース・ボイトラー教授はTNF-αの発見者であり、TLR4の発見者でもある。
慢性炎症では、2型糖尿病、リウマチ、炎症性腸疾患などはTNF-αが原因となっている。2型糖尿病は、TNF-αがグルコーストランスポーター(GULT4)の生合成をオフにすることにより、インスリン抵抗性が誘導され、インスリンがあっても利用できない状態となる。それを抑制する(GLUT4の生合成をオンにする)のがアデイポネクチンである。肥満に伴い筋肉細胞にTLR4の発現が亢進し、刺激によりTNF-α産生が起り、炎症が誘導され易い状態となっている。肥満は炎症の一種とみなされている。マラソン選手の疲労骨折は、過酷な練習により筋肉に炎症が誘導され、TNF-αが作られたために起る。骨は吸収と再生のバランスで成り立っているが、骨吸収を担う破骨細胞の活性化はTNF-αによって誘導される。従って、TNF-α産生を制御することで疲労骨折を予防できるといえよう。激しい運動に炎症は付き物なので、炎症によって生じる障害を防御するためにTNF-α産生を制御することは重要な課題である。
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