最近、「免疫力をアップする食べ物、塩麹・・」などの本が出版されています。
「免疫力をアップしたい」、「免疫力を高めたい」という意識の裡には「感染症に対する抵抗性を高めたい」という願いがあるでしょう。しかし、花粉症も免疫反応の一種ですし、リウマチ、炎症性腸疾患などの自己免疫疾患も免疫反応によって生じたものですから、原因となる免疫力をアップするともっと症状が悪化することになります。
花粉症も自己免疫疾患も免疫のバランスが偏ったことによって生じる病気です。偏った状態を正常の状態に戻し、すなわち恒常性を保つようにするための食品が望まれます。単純に「免疫力をアップする食品」というのではなく、恒常性を高める食品と言ったら良いでしょう。それには発酵食品が良いというのは納得できます。発酵食品に加えて、ポリフェノールを含む食品も長寿に関係がある食べ物として知られています。
発酵食品に使われる微生物として、乳酸菌、糸状菌(麹菌)、酵母があります。納豆も枯草菌の働きによるものです。ヨーグルトは古くから食べられていますし、種々の漬物も乳酸菌を利用したものです。植物の表面には色々な乳酸菌があり、漬物に役だっています。麹菌も色々な発酵食品の製造に欠かせない微生物です。米麹は米のでんぷんを分解する酵素を作り、酵母はでんぷんが分解してできた糖を利用してアルコールを作ります。また、味噌も米、麦、豆で作った麹を利用して作られます。麹菌はでんぷんだけでなく、たんぱく質や脂肪を分解する酵素、植物の細胞壁を分解する酵素も作ります。黒麹が焼酎の発酵に役立つことも知られています。
「発酵」によって植物がどのように変化するのでしょうか。植物は細胞表面にポリフェノールを作って紫外線による被害を防いでいます。ポリフェノールは総称ですので、タンニンもフラボノイドもリグナンも含まれます。「ポリフェノール」というと「抗酸化作用」と答えが返ってきます。確かに、色の黒い果実、例えば、目に良いとされているブルーベリーなどは抗酸化力が強いといわれています。「抗酸化力」は試験管内の反応で測定されます。しかし、試験管内の反応で活性が高いといっても、実際にどの程度吸収され、体の中でどの程度働くか、その有効性は余り確かめられていません。この点、古くから用いられている発酵食品が長寿と関係があるということから見直されています。植物の表面にあるポリフェノールが発酵に係る微生物によって吸収され易い形となっていると推察されます。
発酵ぶどう食品(fermented grape foods, FGF)はぶどう果皮・種子に多量に含まれるポリフェノールを植物性乳酸菌の酵素の力で吸収し易い状態にしたものです。FGFは抗酸化作用というより、「抗炎症作用」に優れている食品です。それは炎症を誘導するサイトカインのTNF-αの産生を抑制することにより抗炎症作用を発揮します。TNF-αが関与する病気や症状に、肥満・2型糖尿病、リウマチ、シミやくすみ、炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎)などがあります。糖とたんぱく質が化学的に結合して生じた老化物質AGEsが炎症を誘導します。糖化反応を抑制する抗糖化作用が求められています。FGFに含まれるフラボノイドのケルセチンも炎症を抑制します。ケルセチンの抗酸化作用はそれほど高くありませんが、抗炎症作用が強いことが知られています。従って、発酵食品に含まれる成分が老化物質AGEsによる炎症を抑制することで、炎症を抑制するため長寿となると考えられます。これはこれから証明する必要がある課題ですが、ポリフェノールが大きな働きをしているのは疑いのないものでしょう。
FGFが末梢血白血球の調節性T細胞(Treg)を活性化するということが最近分かりました。ヘルパーT細胞のTh1/Th2バランスがTh2にシフトすると花粉症になり易ということが知られていますが、炎症を誘導するTh17というサイトカインと炎症を抑制するTreg間のTreg/Th17バランスも重要だといわれています。FGFの抗炎症作用はTNF-α産生の抑制だけでなく、Tregの活性化によることも推察されます。 |